PAUL SIMON

THE PAUL SIMON SONG BOOK (SIMON BEFORE GARFUNKEL)

1. I Am A Rock  2. Leaves That Are Green  3. A Church Is Burning  4. April Come She Will  5. The Sound Of Silence  6. A Most Peculiar Man  7. He Was My Brother  8. Kathy's Song  9. The Side Of A Hill  10. A Simple Desultory Philippic (Or How I Was Robert McNamara'd Into Submission)  11. Flowers Never Bend With The Rainfall  12. Patterns  sound source on YouTube

【 2016年10月31日、My Facebook 上で、下記内容を訂正し、日英入り混じりの長ったらしい投稿をしました。下記内容はそれ以前のものなので古い事実確認の内容を含んでいます。下記内容はいまだ訂正しておらず、今やるのも面倒くさいので(^^ゞ、My Facebook の投稿へのリンクを貼り付けます(^^ゞ 2017年 1月28日付、My Facebook 上の投稿 】 --- 下記内容を訂正した当日の投稿はこっち、でも 2017年 1月28日の投稿の方が「いいね」が多いのでそっちを先に載せた(^^ゞ --- 2016年10月31日付、My Facebook

以下は、2016年10月30日以前の内容。





ちょっと前まで、幻のアルバムだった。僕がガキの頃もレア物だったような気がする。小学校高学年頃(たぶん)から中高にかけて田舎の自宅にあって、一時期LPでよく聴いていた。S&Gデビュー・アルバムが思うように売れず、失意の底でポールが一人でイギリスにわたり、その時期にロンドンでスタジオ録音されたギター1本のソロ。1964年録音だと思うが、翌1965年、イギリスだけで発売、しかしポールの意向で直ぐに回収され、アメリカでは元々発売されなかった。日本では(本人に無許可だったらしいが)1969年に発売されたらしい。

田舎の自宅にあったLPには SIMON BEFORE GARFUNKEL というタイトルも付いていて、ジャケットの写真は上に掲げたヤツだった。裏面は右の写真だったかもしれない(ウェブでみつけたのさ)。実際、これも記憶ある写真だ。

その後、日本でもオリジナル同様に THE PAUL SIMON SONG BOOK というタイトルになって、ジャケットはこんな感じになった(左の写真、これが元々のイギリス盤のジャケットらしい→ いやこれは反転モノで UK オリジナル盤はこの逆、それが正しい写真のようだ; 2016年8月24日訂正)。でも田舎にあった最初の日本盤にもこの写真がどこかに使われていたような気がするな。見た憶えあるもんね。
その後は、どうもポールの指示みたいだけど日本でも廃盤、文字通り、正真正銘の幻のアルバムになってしまった。

ポールとしてはあまりに感情を吐露し過ぎて気恥ずかしかった、ほとんど一発録りのような感じでやった出来が気に入らなかった(ギターは完璧、じゃ歌が気に入らなかった?)、一部ディランの影響をあまりに色濃く残したと思えるパフォーマンスが引っかかった、そのうちサウンド・オブ・サイレンスが勝手にエレキ・バージョンにされて再発されて大ヒットした ・・・ ポールのこのアルバム回収の理由はいろいろあるんだろう。しかし、貴重な録音だ。


1 は後にヒットしたS&Gのエレキ・バージョンの方がきれいだが、こっちの方が感情もろ出しで生々しい。2 も 4 も、1 同様に後のS&Gのアルバム THE SOUND OF SILENCE に2人のハーモニーで歌われて収録された。
3 はS&Gのオリジナルのスタジオ・アルバムには入ってない。だけど2人はライヴでけっこう歌ってたようだ。僕が持ってる、1967年のニューヨークでのライヴ録音のCDでも歌われてる。白人至上主義者たち(KKK、クー・クラックス・クラン)に黒人のキリスト教会が焼かれる様と黒人たちの自由への叫びがストレートに表現された歌詞だ。

5 はS&Gデビュー・アルバムの美しいハーモニーのアコースティック・バージョンでもなく、後にフォーク・ロックの波に乗ろうとしたレコード会社が2人の知らないところでエレキ・サウンドにして大ヒットさせ、アルバム THE SOUND OF SILENCE に収録されたバージョンでもなく、ポール一人が、自らの生ギター1本だけをバックに(と言ってもこのソロ・アルバムは全部そうだけど)、おそらくは成熟し円熟し(てしまっ)た人間からは青臭くも受け取られたかもしれない若くてピュアな魂を込めて歌ったもの。僕は少年の頃、このサウンド・オブ・サイレンスが本当に好きだった。感情が揺さぶられた。今だって十分に「感じる」けどね。

6 と 8 も後にS&Gのアルバム THE SOUND OF SILENCE で2人によって歌われている。
8 、つまり キャシーの歌 は中学卒業頃にかけて大好きな歌だった。S&Gの楽譜を買って、ギターの弾き語りを覚えたもんだ。よく家で一人で弾いて歌ってたよ。今だってもちろん好きさ。 歌詞 も素晴らしいもんね。

7 はS&Gのデビュー・アルバム『水曜の朝、午前3時』 WEDNESDAY MORNING, 3 A.M. で2人が歌っていたもの。僕はそもそも、そのデビュー・アルバムよりこっちを先に聴いていて、ポールが一人で叫ぶ『私の兄弟』の方が印象が強い。黒人に対する人種差別や公民権運動について歌った歌詞。
9 は、僕は以前は気づいてなかったと思うけど、後にS&Gでヒットさせる『スカボロー・フェア』で部分的に使われたみたい。

10,11,12 は全て後にS&Gの第3作目 PARSLEY, SAGE, ROSEMARY & THYME で2人によって歌われた。3曲ともS&Gの美しいハーモニーによって新たに生まれ変わり、とりわけ 12 のS&Gバージョンではガラス細工のように美しいハーモニーが聴ける。
10 は、このソロではもう完全にボブ・ディランかぶれって感じ。あの時代のディランの影響力は、プラグ・インしてからのディランとはまた違う意味で凄いものがあったんだろうけど。この歌の歌詞は何だか妙にレフト・ウィングな風刺をキメてます。
11 は邦題『雨に負けぬ花』。この歌の 歌詞 も好きだね。


そして ・・・ 時は 2004年10月22日、僕は再びこのアルバムを手にしたのである。40年近い歳月を経て、この THE PAUL SIMON SONG BOOK がCD化、発売されたのだ。このアルバムは最初から幻だったアメリカで 2004年3月にCDに姿を代えて初のリリース。日本盤は 5月にリリースされたらしい。まさに幻のアルバムの復刻。カバー写真は、イギリスで一時的に発売された当時のLPのジャケット写真(日本でも後でこれになったようだけど)がなぜか反転してる(→ いやこれが元々の UK オリジナル盤LP のジャケ写だったもの、上記で訂正の通り; 2016年8月24日訂正)。どっちが反転モノか分からないけど(→ 左記および上記訂正の通りこれが本来の写真で UKオリジナルLP ジャケ写だったもの)。そもそも、裏カバーというか、ディスクが収まってる下には当時の並びのモノクロ写真(←日本盤LP で一時誤って使われた反転モノの写真)が入ってるんだけどね。

ちなみにこの写真の2人、一人はもちろんポールだけど、一緒に写ってる女性は、なんと実在したキャシーらしい(後日きちんと確認、これはキャシーその人です)。というか、今もご健在であることを願うけど(← 少なくともこれ書いた時点で健在)。このアルバムでも キャシーの歌 が歌われているわけだけど、後のS&Gの名曲 アメリカ の歌詞にも登場するキャシー、その人。ネットの情報でこの人がキャシーらしいって知ったんだけど、ちょっとびっくりだね。実在の人の実在の名前だったのかい。

ついでに言うと(これは本当のツイデだ)、CD化された日本盤にはライナー・ノーツの一部に漫画家の柴門ふみのエッセイが掲載されている。これはトンデモ余計なシロモノ。こういうの勘弁してほしい。ま、どうでもいいと思えばいいのかね。

このCDには今は昔のLPの12曲に加えて、13, 14曲目としてボーナス・トラックが収録。 I Am A Rock と A Church Is Burning の2曲。後者は6弦ギターのバージョン。おそらく共に同時期に録音されていた別テイクというやつだろう。

ポールも今年で62歳になります。一度は若い時代の苦悩や傷をさらすことをためらったポール・サイモン、40年経って復刻する気になったというのは、実際のところ、どういう気持ちなんだろう。まぁファンには嬉しいニュースではありました。

僕が本格的に洋楽に向かう、その扉を開けてくれたのはサイモンとガーファンクル。直接的には自分の兄貴なんだけどね、扉の場所を教えてくれたのは。
このポール・サイモンの THE PAUL SIMON SONG BOOK は、僕にとって特別な想いが残っているアルバムです。


このアルバムの中は、当時のポールが若干22歳にして抱えた孤独と絶望、それと、もしかしたらかすかな希望、そういうものをストレートに歌っている曲ばかり。
・・・孤独と絶望、希望、それらは若者の特権ではないよね。質はずいぶんと変わってくるんだろうけど、生きているうちは、時に瞬間瞬間にすらそういうものを感じて生きてるような気がする。

・・・田舎の家にあったあのLPは相当なレア物のはずだけど、今はどこにあるのかなぁ。あんがい今も田舎の家か、あるいは兄貴が持っているのかもしれない。

(2004年10月28日、記 & 2016年8月24日、上記の通り一部訂正)



PAUL SIMON

PAUL SIMON

1. Mother And Child Reunion  2. Duncan  3. Everything Put Together Falls Apart  4. Run That Body Down  5. Armistice Day  6. Me And Julio Down By The Schoolyard  7. Peace Like A River  8. Papa Hobo  9. Hobo's Blues  10. Paranoia Blues  11. Congratulations

ポール・サイモンが、S & G (サイモン・アンド・ガーファンクル)解散後に発表した記念すべきソロ第一作(1972年)。これ以前に、S & G の初期にポールがイギリスで発表した THE PAUL SIMON SONG BOOK というタイトルのソロ・アルバムがあるが、そちらは当時ポール自身によって短期間のうちに回収されており(したがって今となっては幻のソロ・アルバム、しかし日本では少なくとも何年間も発売されていて田舎の我が家にもそれはあった−大体の曲は S & G でも歌ってた曲だったと思う−、あれってどこ行ったんだろう? もっとも今も容易に入手出来るのかも? この辺りはちょっと調査不足です、あー長いカッコだった ・・・ 2004年にCDで復刻しました)、デュオ解散後に制作された本作を事実上のソロ第一作とみることに大方の異論はないだろう。

1 や 6 はシングルでもヒットした曲だが(前者は確かビルボードの 1位か 2位、あと 2 もシングルヒットしてたかも)、とりわけ 1 はジャマイカはキングストンでレコーディングされたもので、おそらくはジャマイカ以外のメジャーなアーティストがレゲエを取り入れた最初の曲であって、ポール・サイモンの音に対する貪欲さ、斬新な感覚を象徴する曲の一つと言っていいと思う。しかもレゲエのリズムを使いながら、単にレゲエの曲を作るのではなく、まさしくポール・サイモンの音楽になっているのが彼の偉大なところ。つまり、レゲエっぽくはなっていない(別になってたっていいんだけど、笑)。レゲエを取り入れて、新しいポール・サイモンの音楽を作ったわけだ。
後にあの GRACELAND の制作でポールが急にワールド・ミュージックの達人になったかのように思った人もいたかもしれないが、ポールは何もその時突然変わったわけではなくて、以前からそういう感覚を持ったミュージシャンだったってこと。本作のポールにもそういうところがあるし、S & G 時代だってそうだった。ちなみに、2 では S & G の El Condor Pasa (If I Could) でも共演していた LOS INCAS がバックを務めている。

9 は同曲のヴァイオリン奏者の STEPHANE GRAPPELLI との共作で、他は全てポールのオリジナル。ヒット曲、名曲といった趣よりも、佳曲がズラリといった内容。で、この際、佳曲は必ずしも名曲よりも劣るものではないと言ったら、ニュアンスは伝わるだろうか。とにかく一曲一曲がイイ。って言ってしまうと、もともとポールの曲はみんなイイんだけど。詩もいいんだよな。仮に音楽が無くとも詩だけで十二分に作品として成り立つのはポール・サイモンならではのこと。この人は 本当に Artist Of Artists なんだ。

(2002年3月23日、記)



PAUL SIMON

THERE GOES RHYMIN' SIMON

1. Kodachrome  2. Tenderness  3. Take Me to the Mardi Gras  4. Something So Right  5. One Man's Ceiling Is Another Man's Floor  6. American Tune  7. Was a Sunny Day  8. Learn How to Fall  9. St. Judy's Comet  10. Loves Me Like a Rock  11. Let Me Live In Your City  12. Take Me To The Mardi Gras (Acoustic Demo)  13. American Tune (Unfinished Demo)  14. Loves Me Like A Rock (Acoustic Demo)

オリジナルは 1973年。S & G 解散後のソロ2作目。上にリスト・アップした14曲のうち、最初の10曲がオリジナル・アルバムに収録されていたものね。後の 4曲は、2004年7月に新たにリリースされた際のボーナス・トラック。

僕はオリジナルが出た時に買って聴いた(兄貴が買ったのかな、たぶん)。僕が中1、兄貴は高1の時ね。
これはもう極上のポピュラー・ミュージックそのもの。やっぱポールの最高傑作じゃないかなぁ、これ。ちなみに、10曲中 6曲は、南部アラバマ州はマッスル・ショールズのスタジオで録音。これが見事に活かされてます。


1. Kodachrome

 この1曲目でまずぶっ飛びます。研ぎ澄まされたギターの音で始まり、ドラムやピアノが加わって織り成す軽快なリズムのサウンドがリスナーを一気に惹き込むイントロ。コダックのフィルムにナイコンのカメラ。ナイコンって日本のニコンのことなんだよねぇ。詞もゴキゲンです。録音はマッスル・ショールズ。

2. Tenderness

 君の誠実さの裏にはやさしさがないねって歌う歌。佳曲です。バック・コーラスは THE DIXIE HUMMINGBIRDS です。これがまたかっこいい。

3. Take Me to the Mardi Gras

 これ、サイコー。
ウェブで改めて調べると、Mardi Gras は元はフランス語、英語では Fat Tuesday、ニューオーリンズのものが有名。ここで歌われているのもニューオーリンズのマルディ・グラです。ディキシーランド・ジャズ発祥の聖地ニューオーリンズですが、ニューオーリンズのマルディ・グラは、18世紀初頭にフランス人入植者が私的な仮面舞踏会として持ち込んだもののよう。その後、全米最大級のカーニバルに発展。イースターの前から1ヶ月間も続くらしい。
マルディ・グラの説明はさて措き、この曲、リスナーに、ニューオーリンズのマルディ・グラの楽しさを完璧に伝えてくれます。僕は行って観たことないのに断言しちゃう。そう断言させちまう曲。
曲の終盤で THE ONWARD BRASS BAND によるブラス演奏が盛り上がり、フェイド・アウトするまでの約40秒。本当にそうなんです、マルディ・グラを行って観たこともない僕みたいなリスナーの脳裏にも、見事にマルディ・グラの情景が浮かんでくるのであります。この僅か 40秒、ほんまに見事。
ポピュラー・ミュージックの最高峰を示す珠玉の一品。
録音はマッスルショールズ、アラバマ州。ニューオーリンズはルイジアナ州。まぁ近いんよ(笑)。

4. Something So Right

 中学の時に聴いて、歌詞に中国の万里の長城が出てくるのが興味深かった。興味出たら確かめてみて。ストリングスのアレンジ(クインシー・ジョーンズ)も素晴らしい佳曲。これはニューヨークのジャズ・センスが溢れた曲かな。録音もマッスルショールズではありません。

5. One Man's Ceiling Is Another Man's Floor

 ある人の天井は他のある人の床。それがアパートメント・ハウスのルール。けっこう痛烈な内容の歌詞。アルバム・ジャケットには収録曲に関連付けられたオブジェやイラストが飾られているんだけど、この曲のオブジェでは、椅子が置かれた部屋の天井に、その部屋の床に向かって、つまり逆向きに引っ繰り返って椅子が貼り付いている。ある人の部屋の天井の、更に上にある階上の人の部屋の床に、普通に椅子が置かれてるんじゃなくて、言わば床下の、階下の部屋の天井からその部屋の床に向かって、つまり反対方向に向かってるのって、実はこの歌詞の深さと関係あるのかね。階上に他人がいるというより、同じ空間で逆方向に向かって存在している現代人(?)。中学の頃はあまり気にしなかったけど、大人になると妙に気になるものがあります。この曲はオリジナルのLP盤ではA面の最後の曲。マッスルショールズの録音。

6. American Tune

 B面の1曲目でした。ポールが今も歌い続けている曲の一つだから、本人もかなり気に入ってるのは確かでしょう。メイフラワー号でやって来て、月に行ったと歌われる、まさにアメリカの歌。S & G 時代の America と並ぶ、ポールのアメリカの歌。これが英国はロンドンでの録音ってのは偶然でしょうか(?)。

7. Was a Sunny Day

 マースルショールズで録音。よく晴れた日だった、って本当にそれを音楽に表わした曲。晴れた日だったんだ。それは。

8. Learn How to Fall

 飛ぶことを学ぶ前に落ち方を学びなさい。これはミシシッピ州のスタジオでの録音。

9. St. Judy's Comet

 これは都会的な洗練を感じさせる佳曲。これも録音はマッスルショールズなのです。

10. Loves Me Like a Rock

 オリジナルのLP盤の最後を飾った曲。マッスルショールズでの録音。THE DIXIE HUMMINGBIRDS がブラック・ゴスペル・サウンドというか、ドゥアップというか、とにかく盛り上げます。思わず身体が踊り出す、躍り出す、躍動感満杯、うーん、お見事。


この後の 4曲は、2004年7月のボーナス・トラック盤のものですが、これがけっこう面白い。
11 の Let Me Live In Your City は、4 の Something So Right の「メイキング」って感じ。繰り返しの部分が、歌詞が違うだけでなくてメロディも違うもの。で、タイトルも別だったってわけ。これ、普通に考えればこっちが原型なわけだけど、ちょっと詳細は分かりません。
12 は Take Me To The Mardi Gras のアコースティック・ギター1本のデモ録音。こうやって作っていくんだって、天才ポールの曲作りをちらりと知るデモです。
13 は American Tune のデモ。歌詞もまだ固まってなかった段階かも。ハミングで歌って録音してます。
14 は Loves Me Like A Rock の アコースティック・ギター1本によるデモ録音。十分、ノレます。

One Man's Ceiling Is Another Man's Floor のところでちょっと触れたけど、当時、アルバム・ジャケットも印象的でした。収録曲を想像させるオブジェや写真、イラストなどが使われていて、そこかしこに曲名が。CD盤も踏襲してるのでご安心。

何度同じ言葉を繰り返して称賛しても足りない、ポピュラー・ミュージックの宝ともいうべき作品。何を並べ立てても結局は及びません。そう、これは音楽なのです。さて、やっぱり、聴くしかありません(笑)。
アルバム・タイトルは、ほら、聴いてごらん、またサイモンが韻を踏んでるよ、って感じでしょうか。歌詞ももちろんベリー・グーであります。

(2005年4月9日、記)



PAUL SIMON

STILL CRAZY AFTER ALL THESE YEARS

1. Still Crazy After All These Years  2. My Little Town  3. I Do It For Your Love  4. 50 Ways To Leave Your Lover  5. Night Game  6. Gone at Last  7. Some Folks' Lives Roll Easy  8. Have A Good Time  9. You're Kind  10. Silent Eyes

S & G 解散後のスタジオ・テイク3作目(1975年)。PAUL SIMON 、THERE GOES RHYMIN' SIMON に続くものだが、前作との間にはライヴ盤 LIVE RHYMIN' が挟まれてる。実はこのライヴ盤も、ゴスペル風からゴスペルそのものに近くアレンジされた Bridge Over Troubled Water などあって、なかなかにいい。しかし、ここではこの STILL CRAZY の話。

10年余経過してからポールは元々持っていたワールド・ミュージックへの関心を拡げ、一気にその音楽表現をワールド・ワイドなスタイルにするわけだけど、ここでのポールはあくまでニューヨークのポール。都会の孤独、故郷、絶望と希望、ポールが長年歌い続けるテーマが歌われているアルバム。僕にはスタジオテイク前作の THERE GOES 〜 と共にポールの大好きなアルバムだけど、この2作はだいぶ趣が違う。どっちが好きかっていうとこれは難しい。僕の頭のなかでは甲乙つけがたく、比べられない。とにかく色が違う作品なんだ、このふたつは。

前作でアメリカ南部を旅し、なにか明るい日差しの下でアップテンポにしろスローなものにしろ身体を自然と揺り動かすようなパフォーマンスを見せたポールの音楽だけど、本作ではあくまでもニューヨーク、しかも曇り空とか夜とかをイメージさせ、前作と比べてだいぶ陰影が深いものになった。バックはピアノにリチャード・ティー、ボブ・ジェームス、ドラムスにその後も長い付き合いの続くスティーヴ・ガッドなど、ジャズ系が多くを固めてる。
たしかこのアルバムはグラミーの最優秀アルバムを取ってたと思うな。

アルバムタイトル曲の 1 は、昔の恋人とばったり再会した場面から始まる曲なんだけど、それがそういう歌(?)というわけではない。歌詞の一部はこんなだよ。 "crazy" は最後になるとダブル・ミーニングに変わっていきます。
これは正真正銘、名曲だね。エレクトリック・ピアノは Barry Beckett って人、サックスは Mike Brecker って人らしいけど、共に素晴らしい。後者はマイケル・ブレッカー? たしかけっこう有名な人だったよね、僕はズージャはあんまり詳しくないからご容赦。

2 はアート・ガーファンクルと一緒に歌ってて、当時アーティのソロにも収録され、一部メディアに S & G 復活かなんて誤解されて騒がれた曲だな。イントロのピアノが印象的。故郷を歌ってるけど、あくまで陰鬱な歌詞です。
4 も大ヒット曲だったな。イントロのスティーヴ・ガッドのドラムスはあまりに有名かつ超絶かっこいい。バック・ヴォーカルの中には後で紹介するフィービ・スノウも入ってます。
6 もわりとヒットしてた記憶がある。フィービ・スノウとコール・アンド・レスポンス風に歌い、バックは LIVE RHYMIN' にも参加してたジェシー・ディクソン・シンガーズ。アップ・テンポなゴスペルっぽい感じの曲でノリがいい。

10 の Silent Eyes では「エルサレム」が歌われるが、ユダヤ人であるポールが歌おうとしたことは何だろう。
ちなみにこの曲のバック・ヴォーカルには、The Chicago Community Choir という名のクワイアがクレジットされている。

7 もドラムスがスティーヴ・ガッド、サックスはデヴィッド・サンボーンだし、とにかくアルバム全体にジャズ・フュージョン系のミュージシャンが多用されて、都会風の洗練されたサウンドになってるんだけど、それでいて、このアルバムの音楽は何か陰のようなものを引きずっている。どこか暗い。そのバランスが見事で余計に引き込まれる。ニューヨーカーのポール・サイモン面目躍如って言ったら、称賛の言葉としては反ってちょっとダサい表現かな。何て言ったらいいのか、そう、ウディ・アレンの映画とかに似合いそうな世界だな。

3 の I Do It For Your Love ・・・ 美しいラヴ・ソングです。これもポールらしいと言えばポールらしい曲。S & G 解散後1作目のソロアルバム、PAUL SIMON の最後の曲、Congratulations の返歌のようにも聴こえる佳曲。いい歌です。僕はこういうラヴ・ソングも好きだな。

(2004年10月11日、記)